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風が気持ち良かった。


全開にした部屋の窓から入り込んでくる風。

ジメジメした嫌な湿気など無い、ただ爽やかな空気が部屋を流れていく。

太陽の光は差し込んでくるが、薄い雲が空全体に散らばっている。

夜から雨が降ると天気予報では言っていた。




風の音を聞きたくなった。


さっきお湯を沸かした時につけた、台所の換気扇を消す。

PCのファンの音が少し気になるが、PCは消せない。

この状況を言葉にできなくなる。


ドリルで木材に穴を開ける音。

たぶん細い鉄骨をガシャーンとまとめて投げ落とす音。

少し離れたところで建築工事をしているようだ。


家から100mも離れていない国道から時折聞こえるトラックの走行音。

ギアチェンジをしながら家の前を通り過ぎていく原付の軽いエンジン音。

窓から見える名前のわからない広葉樹の葉がサワサワと揺れる音。

どこかに向かって一直線に飛びながらさえずるスズメの鳴き声。


PCの電源を落とした。

活動を停止したファン。

人工的な音が煩わしくなったから。

無機質で、角ばっていて、温かみの無い音が煩わしくなったから。




静寂が生まれた。




人の手が及ばないところへ行ってみたくなった。

太陽と、空と、砂だけが広がる砂漠がいい。

時折今日のような風が吹いて、一瞬だけでも灼熱を和らげてくれれば、

とても気持ちが良いだろう。

きっと、本来の風の音が聞けるだろう。


静寂の中に生まれた音を。

何と比較することもなく、ただその音を。

あなたが奏でるそのものを。

私の奥深くに刻みこみたくなった。




携帯電話が鳴る。


現代との繋がりを認識させるに十分な音。

ディスプレイに映るあなたの名前。

「もしもし」と言うあなたの声。




砂漠に吹く風のように、私の心の灼熱を和らげていった。

投稿者 ybb4ac | 返信 (0) | トラックバック (0)

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